大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)151号 判決 1961年6月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士大塚守穂、同大塚重親の上告理由第一点について。

原判決の確定するところによれば、本件選挙の不在者投票は、留萠市選挙管理委員会の委員長室で、委員長若しくは委員長の職務を代行する委員の面前で、同委員会の書記小笹英一が立会人となり、事務の大半について雇員松尾京子、湯田幸子の補助執行によつて行われたというのである。右小笹が選挙事務の一部を執行したことも原判決の確定するところであり、かかる者が投票に立ち会うことは、立会の趣旨から言つて望ましいことでないことは勿論であるが、不在者投票が連日行われること、その立会人の選任手続について公職選挙法三八条のような厳格な規定がないこと及び法令に規定する不在者投票立会人の職務等について考慮し、かつ、かかる者の立会を禁止する趣旨の規定もないことにかんがみれば、右小笹の立会をもつて違法と断定することはできない。原判決が右立会を違法でないとしたのは正当であつて論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決の確定するところによれば、本件選挙における不在者投票三四五票のうち二八八票については、投票に立ち会つた前記小笹が投票用封筒の裏面に署名せず、未成年の臨時雇員松尾京子が小笹英一の氏名を代つて記入したというのである。右の事実が公職選挙法施行令六〇条一項に違背することは極めて明白である。しかし、右の事実だけで、選挙人がした投票がすり代えられたり、あるいは、選挙人の真意と異る投票が行われた疑があるとは到底いうことができず、よつて選挙の自由公正が害されたともいえないから、右の規定違反は選挙の結果に異動を及ぼす慮がないものといわなければならない。原判決は正当であつて論旨は理由がない。

同第三点について。

選挙人名簿の抄本を選挙人の対照に用いることができることは公職選挙法四四条によつて明らかであるが、抄本に原本と一致しない点があれば、かかる抄本も用いることは違法といわなければならない。原判決の確定するところによれば、本件選挙の当日右対照の抄本を用いたのであるが、その抄本には修正、符箋処理表示の遺脱、誤謬があつて登録者八七名について原本と喰違いがあつたというのである。しかし、さらに原判決の認定するところによれば、右喰違いにつき選挙管理委員会の職員になんらの悪意はなく、これを利用して不正投票を看過したことを窺うべき何等の証拠もないのみならず、その結果無資格者で投票した者は九名に過ぎないというのであるから、本件選挙の当落得票差三一〇票から見て、右の違法は選挙の結果に異動を及ぼす虞がないものといわなければならない。原判決の説明は、右述と多少異るけれども、本件選挙を無効ではないとし、上告人の請求を容れなかつたのは正当であつて論旨は理由がない。

論旨は、さらに選挙無効原因を主張するけれども、所論二重に投票済印のある者が二〇名あつたのも、原判決の認定するところによれば、投票済印を誤つて押し、または押印を遺脱した等の事実によるものであつて、選挙人確認手続の不手際のため多数の不正投票が行われたという事実は認められないというのであるから、よつて本件選挙を無効とすべきではなく、また、入場券の提出のない者に投票させることは違法ではなく、その他所論の各事実は、本件選挙を無効とすべき理由にはならない。原判決は正当であつて論旨は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例